マムシのパワーを知っているかな?
僕、マムシ。そんなことは見ればわかるって? そりゃあ、そうかもしれないけど、見ただけじゃわからないことだって多いじゃないか。 僕のことを見た目だけで判断して毛嫌いしたり、さもなきゃ、スケベそうな顔して ニヤニヤ笑ったりしてサ。 僕もいいかげんまいっちゃうよ。 キミたちは知らないかもしれないけど、中国4000年の歴史の中で培われた漢方医学では、 僕はずいぶん珍重されてきたんだよ。昔の人はいろんな経験を通して、僕の秘めたるパワーに 気が付いていたってわけだね。 おもに滋養強壮薬として、血行不良、胃腸虚弱、易感染状態(病気にかかりやすい状態)などに 威力を発揮していたんだ。 漢方っていうと、効き目がはっきりわからないとか、科学的でないとか誤解している人がいるけど、 僕のパワーはちゃ?んと 科学的実験でも証明されているんだよ、エヘン。 だから、そんな気味悪そうな顔しないで、僕の話を聞いておくれよ。 きっと、キミたちの役に立つはすだよ。
「マウスのよじ登り実験」で証明されたた強壮効果
まずはちょっと面白い実験から紹介しよう。約60℃に加熱した ホットプレートの上にそれは「マウスのよじ登り実験」といって、 50cmのロープをつるし、ホットプレートの上にいるマウス (実験用二十日ネズミ)にこのロープを登らせるもので、 ロープを登るスピードを測るんだ。 ホットプレートが熱いからマウスは必死でよじ登るんだけど、 マムシを服用したら、この時間が短縮されたんだよ。 この実験からも、僕が瞬発力を強め、体力を増強させることが わかるだろう? こういう効果が表れるのは、それは僕が”強心作用”を、 もっているからなんだ。
強心作用からくる強壮効果
ふつう強心薬っていうと、心臓の収縮力を強めるほうに働くんだけど、 そうすると血圧が上がって副作用が出てしまう。ところが、マムシは 血圧に影響を与えないで心拍数を増やすという形で働くもんだから、 強心薬としては理想的なんだって! それに、心拍数が増えれば血流量だって増えるよね。現に、総頸動脈の 血流量を測る実験では、マムシを服用したら20%も血流量が増えたという データもある。 心拍数が増えてどんどん血液が身体全体に送られると、栄養や酸素の 供給も充分に行われるから、体の細胞が元気よく動き滋養強壮に いいんだね。
ストレスによる胃潰瘍の予防にも
今、胃潰瘍の原因で一番多いがストレスによるものだけど、僕はそのストレス潰瘍にも効果ガあるんだよ。 ストレス潰瘍っていうのは、ストレスによってホルモンのバランスがくずれたり、胃の粘膜の抵抗性ガ弱ったりしてできる。 そこで実験では、ラット(実験用ネズミ)を20時間、胸まで水につけてストレス状態において潰瘍を起こさせたんだ。 このとき、マムシを投与しなかったものと投与したものの潰瘍の大きさを比べると、投与したほうは格段に小さかったんだよ。 これで僕がストレス潰瘍の予防にずいぶん効き目があるのかがわかってもらえたかな。
科学実験でも効果が実証された!
僕は古来から滋養強壮薬として、胃腸虚弱、血行不良、易感染状態(病気にかかりやすい状態) に用いられてきたわけだけど、僕のパワーは経験の中で見いだされて ”生活の知恵”として 伝えられてきたせいか、現代科学からはわりと軽んじられがちだったんだ。 だけど、最近はいろんな研究が行われて、それが迷信でも気休めでもなくて、ほんとに効果が あるって実証されるようになったんだ。 おかげで僕も鼻が高いよ。 もっと早く気が付いてくれれば、みんなから嫌われなくてすんだのになあ。 でも、ここはひとつ気をとりなおして、みなさんに僕の秘めたるパワーを紹介しちゃおう。
急性潰瘍を予防し、慢性潰瘍の治療にも効く
まず、胃腸虚弱に対する作用からいこうか。これを調べるために、急性潰瘍の予防効果と慢性潰瘍の治療効果の2つについて 実験が行われたんだ。 急性潰瘍のほうは、胃の出口にあたる幽門といわれる部分を糸でしばって胃液が腸に流れずにどんどん胃にたまるようにすると、 胃酸過多の状態になって、たまった酸で胃が傷ついて潰瘍になってしまうんだ。このときにマムシを飲ませたラットの潰瘍の 発生率は、飲ませなかったラットの半分以下。僕がみごと急性潰瘍の発生を抑えたってわけだ。なぜ、こうなるのかは現代医学では まだはっきりわからないらしいけど、どうも僕に胃粘膜の保護作用があるからじゃないかといわれているそうだよ。 慢性潰瘍は、ラットを麻酔して胃の一部を出し、膜の下に酢酸を注入して起こさせる。そして、その傷口を縫合して飼育し、 あるものには酢酸を注入して2日後から10日間、マムシを飲ませ、あるものには水を飲ませたんだ。 そうして再びラットを解剖して胃を見てみたら、マムシを飲ませたほうのラットの潰瘍は、水だけのものに比べてものすごく良くなって いたんだ。自慢じやないけど、僕は慢性化した潰瘍の治療を促進するんだよね。
マムシが血行不良にいいわけは…
次は血行不良に対する作用だけど、これについては、胃・肝蔵・脾臓・における血流量を調べたんだ。 それによると、僕は胃粘膜や肝臓の血流量を増やすように働くんだって。肝臓っていうのは、本来ゆっくりと血が流れているんだけど、 その血流を増やすってことは、肝炎に効果があるって実験をやった先生は言っていたよ。
免疫力を高くしてウィルスもへっちゃら
それから、易感染状態(病気にかかりやすい状態)に対する作用については、 免疫力に対する効果で検討するんだよ。免疫力を調べるには、ちょっと難しく なるけど、カーボンクリアランス法 という方法と、異物貪食能を調べる方法 などがあるんだ。免疫っていうのは、みなさんも知ってるように、バイ菌や ウイルスなどの異物か体の中に入ってきたら、それらを処理して病気が発現 しないように防ぐシステムのことだよね。カーボンクリアランス法は、血液に 入ったカーボン(異物)が半分に減る時間を測ることで、異物を処理する免疫力 の大きさを知る方法なんだ。
その時間が短ければ短かいほど免疫力が大きいということになるわけだ。 で、マムシを飲ませたマウスの場合、どうだったかというと、やっぱり、この時間が飲ませないマウス に比べて、とても短かった。もちろん、異物貪食能を調べる方法でも、僕のパワーは実証されたよ。 このようにマムシを飲むと免疫力が高まるってことは、バイ菌や.ウイルスをすばやく処理しちゃう ってことだから、マムシは風邪をひきやすい人などにおすすめということがいえるね。
生薬・マムシの薬理活性(第1報)として日本薬学会第105年会(1985)にて発表したものの 一部をわかりやすく説明したものです。
参考文献 1.鄧魯明・高士腎,”中国動物薬”吉林人民出版社,1981,PP・323?324 2.K.Takagi,S.Okabe,Jap.J.Pharmacol.,18,9(1968)